2010年5月29日土曜日

NO NEGATIVE, NO LIFE. / POARO

NO NEGATIVE, NO LIFE.


いつまでも同じようなことをやっているわけにはいかない。時代が変われば、需要も変わる。POAROは、オタクの気持ちや行動を歌ってきたユニットだった。しかし、オタクというものが時代と共に一般化するにつれて、オタクの気持ちを歌うこと自体が珍しいことではなくなってきた。そこで彼らは方向転換をすることにした。ネガティブな気持ちをポジティブに歌うというありそうでない方向へと。

本作で彼らは、自分に自信が持てない男の子のネガティブさを明るく楽しく歌い上げる。その方向性が特に顕著に出たのが、「dreams NEVER come true」だ。サビからして「夢は叶わない! 夢は叶わない! 誰も言わないが 夢は叶わない! 」と、あまり誰も言わないことを平然と明るく歌う。他にも、先述の方向転換を歌う「Baby!No Kidding!」、作詞と作曲を大槻ケンヂが担当するハードロック「プライド オブ アンダーグランド」、ネガティブ思考を肯定しつつ生きていく「NO NEGATIVE,NO LIFE.」、卒業式で感じる疎外感を歌う「ライトアップ!!!」など聴き所は多い。

多くの歌が夢や希望、理想を語る。恋は実るという、努力すれば夢は叶うという、平和が一番という。しかし、現実は歌のように何でもうまく行くわけではない。そんな気持ちを表す歌があってもいいはずだし、それをテーマにしたこんなアルバムがあっていいはずだ。

everyday is a symphony / □□□

everyday is a symphony


普段聞こえてくる音、例えば、風の音や電車の音、話し声、果ては携帯電話の内容を曲に取り込めたら……このアルバムは、そんな願望を実現した実験的な作品だ。

発車メロディのような曲に所々で駅構内でのアナウンスが入る「Tokyo」や卒業式での校長先生や生徒達の話、校歌の一部を曲に埋め込んでいる「卒業」など、サンプリングを多用する曲が多い。しかし、このアルバムが本当に凄いのは、こんなにもサンプリングを多用しているにも関わらず、王道のポップスを貫いているところにある。「00:00:00」は、その好例で、時計の規則正しい音と口ずさみやすいメロディと語りが同居した曲だ。ひとつ間違えば崩れてしまいそうな危ういバランスだが、それを保ちつつ、聴きやすい曲にしている。他にも、携帯メールをそのまま語る「Re:Re:Re:」も面白い。

そんな中、異質な曲もある。「ヒップホップの初期衝動」は、いとうせいこうがヒップホップと出会い、感動し、日本語でラップするまでを描く曲だ。アルバム全体からするとかなり異質だが、流れとしては何の違和感もなく聴けてしまう。いとうせいこうのラップは、現在の流行りとは違うが、声を張り上げ当時の事をラップする彼は、とてもカッコいい。

このアルバムを聴いた後だと、他の曲がなんだか箱の中に閉じ込められたように聴こえる。箱から飛び出し街へと繰り出したような曲の数々にやられてしまったからだろうか?

詩人の刻印 / 小林大吾

詩人の刻印


スポークン・ワードというパフォーマンスがある。詩人が自らの詩を朗読していくものだ。ジャズやソウル、ヒップホップの音に乗せて朗読する事もある。しかし、これは主にライブパフォーマンスであり、音源化される事は少ない。

小林大吾はそんなスポークン・ワードのCDを出す数少ないアーティストの一人である。彼が紡ぎ出す言葉による世界は、恐ろしく濃く、そして、楽しい。誰もが恋をしてしまう刺激的な女の子と一緒にドライブする「アンジェリカ」や、地上でバカな事をやっている間に天界では宴が開かれ神様達がどんちゃん騒ぎをしている「饗宴」などのストーリーテリングは聴いていて楽しいし、その根底には皮肉めいたメッセージが込められている。特に「三角バミューダの大脱走」はいい。誰も脱出が出来ないという噂の刑務所は囚人と看守が楽しく優雅に暮らす刑務所だった。楽しすぎて誰も出ないので、囚人は増え続け、いつしか……こんなユーモアと皮肉が入り混じる物語は誰が聴いたって楽しめるはずだ。これらの物語を朗読する小林大吾の声とそれを支えるビートが、物語の世界観をより一層広げてくれている。声の調子もただ平坦に語るのではなく、「話咲く種をまく男」では、歌のように流れる朗読を披露してくれる。

ここまで行くと、朗読というよりラップに近い。しかし、日本ではこの手の作品は少ないので、新鮮に感じる。このような言葉を大切にする音楽が広がることを願う。